官浪の文房具雑学~サインペン編~
皆さんも一度は使ったことがあるはずの「サインペン」。少し長めのキャップが付いたお馴染みの筆記具です。このサインペンを開発したのは文具メーカーの「ぺんてる」です。ぺんてるの前身である大日本文具株式会社は1946年(昭和21年)創業で、もともとは墨や筆の卸業から始まり、戦後の美術教育を見込んで絵の具やクレヨンなどの製造をしていました。その後「新しいものを生み出す」という会社の考えに沿って、筆記具の開発に力を入れました。1960年(昭和35年)に、世界初のノック式シャープペンシル「ぺんてる鉛筆」と油性ペン「ぺんてるペン」を発売しました。ぺんてるペンは、ヒット商品となりましたが、インクが滲じむ、裏写りがしやすく両面に書けない、などの不満の声が消費者から挙がり、その欠点を解消するために、水性ペンの開発を開始しました。しかし、水性インクは油性インクと比べると粘性が少ないために、中綿にインクを吸い込ませると、インクが漏れてしまうという課題がありました。中綿とペン先にアクリル繊維を採用し、さらに新開発の水性インクに合わせた工夫が必要になり、この開発に試行錯誤が繰り返されたそうです。そして、約8年の研究開発を経て、1963年(昭和38年)に「サインペン」は完成しました。発売当初のサインペンの本体色は、ベージュで尾栓を黒や赤にすることで、インクの色がわかるようにしていました。しかし、ある製薬会社から注文を受けた際に「本体をインク色と同じ色にして欲しい」との要望により、本体色を変更されました。ぺんてるは、自信を持って売り出したものの、サインをするという文化のない日本では、あまり受け入れられませんでした。そこで発売の翌年に、アメリカ・シカゴで開催された文具見本市に出展。来場者にサンプルとしてサインペンを配ったところ、その1本が当時のジョンソン大統領の手に渡りました。その書きやすさが気に入った大統領は、24ダースをぺんてるに発注しました。そのことがアメリカの雑誌「Newsweek」で取り上げられ、全米で大ヒットとなりました。また、無重力空間でもインク漏れせずに書ける、とのことでNASAの公式筆記具として採用されました。こうしてアメリカの大ヒットが日本にも伝わり、日本でも大ヒット筆記具となり、ロングセラーとなっています。近年では筆のようなタッチで書ける「筆タッチサインペン」や「はがきサインペン」などのサインペンも発売されています。