官浪の文房具雑学~開明墨汁編~
「書初め」をされた方もおられるかと思います。昔は硯に注水し墨を磨り、筆に付けて書くという手順だったのですが、硯で墨を磨った後の後片付けなどの煩わしさを感じる人も少なくありませんでした。そこで誕生したのが「墨汁」です。明治の中期に、岐阜県の小学校で教員をしていた田口精爾氏が、習字の授業での子供たちを見て「墨を磨るのに時間がかかり、実際の文字を書く時間が足りない」また寒い冬にかじかんだ手で墨を磨るのはかわいそうだと考え、墨を磨らずに書ける墨の製造を思い立ち、研究を重ねました。精爾氏は教員を辞め、東京職工学校に入り固形墨の主原料である油煙と膠の研究に没頭しました。その結果磨らずに書ける練り墨「開明墨」を発明しました。しかし、この練り墨は使う時に水が必要であっため、水を使わない液体墨の開発に取り掛かり、1898年(明治31年)に製墨原料にカーボンブラックを使用した液体墨が完成。それは「開明墨汁」と名付けられ田口商会(現在の開明株式会社)によって発売されました。商売の現場では重宝されましたが、書道の専門家からは「墨汁を使うと筆が痛む、また文字が光る」などの指摘が寄せられた。その要望に応えるべく、更に研究を続け品質向上に務め「開明墨汁」の評判は高まっていきました。1959年(昭和44年)膠の代わりに合成樹脂を使用した「開明書液」を発売。これは現在もベストセラーになっています。2002年(平成14年)にはプロの漫画家や漫画家志望者にも支持されている「まんが墨汁」を発売されています。今後もITの時代だからこそ、墨汁を用いて手書きの文化を守っていきたいですね。