官浪の文房具雑学~アラビックヤマト編~
1899年(明治32年)創業のヤマト糊本舗(現 ヤマト)は、保存の効くでんぷん糊をピン容器に詰めた画期的な商品「ヤマト糊」を開発し、長年の歴史を経て、家庭や学校での生活必需品となりました。その糊メーカーであるヤマトが、1975年(昭和50年)に発売した液体のり「アラビックヤマト」は、ロングセラー文房具のひとつです。この「アラビックヤマト」という名前の由来は、明治末期頃にイギリスやドイツから輸入されたアラビア糊にあります。アラビア糊とは、アラビアゴムノキの樹液を主成分とした液状糊です。小瓶の先端に付けられた海綿を通して、本体を逆さまにして押し付けると糊が染み出てくるものですが、塗り口が固まるという欠点があり、あまり普及しなかったそうです。1970年代に、オフィスで働く女性から「手を汚さずに、きれいに塗れる糊がほしい」との要望があり、ヤマトの研究者は、あのアラビア糊と合成糊を組み合わせたものを作ることができれば、素晴らしい事務用の糊ができると判断し、研究に取り掛かった。しかし、滑らかな塗り味を実現するには、糊を均一に塗布しなければならないことが分かり、スポンジだけでは均一に塗布できない。そこで開発者が思いついたのが「ざる」でした。ざるの底に裏側から力を加えると、弾力性と強度が保てることに注目し、特殊スポンジキャップを付けた「アラビックヤマト」が誕生しました。滑らかな塗り味と強い接着力を持ったこの合成糊は、発売から45年経った現在でもシェアNo.1を保っています。今年1月、この液体糊の主成分(PVA)が、癌の放射線治療の効果に大幅に向上させることを東京工業大学の研究チームが発表され、話題になりました。